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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)58号 判決 1964年6月30日

原告

辰馬本家酒造株式会社

右代表者代表取締役

辰馬力

右訴訟代理人弁護士

浅田清松

同弁理士

大沢豊次郎

被告

特許庁長官

佐橋滋

右指定代理人通商産業事務官

渡辺正道

江口俊夫

主文

昭和二九年抗告審判第八一三号事件につき特許庁が昭和三八年四月一〇日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

第二、請求の原因

一  原告は、昭和二七年一一月二五日特許庁に対し、別紙第一記載のとおりの商標につき、指定商品を旧商標法施行規則第一五条第三八類清酒として登録出願したところ(昭和二七年商標登録願第二九五〇〇号)、昭和二九年三月六日拒絶査定を受けたので、原告はこれを不服として同年四月二九日抗告審判の請求をし、昭和二九年抗告審判第八一三号事件として審理されたが、昭和三八年四月一〇日右抗告審判の請求は成り立たない旨の審決がされ、同審決の騰本は同月二〇日原告に送達された。

二、審決は、別紙第二記載のとおりの商標を登録第六二三九七号商標であるとし、これを引用した上、本願商標と引用商標とは外観上からみるときは類似の範囲を脱する差異があるけれども、「ハクシカ」(白鹿)の称呼、観念において共通し、指定商品も互に抵触する関係にあるから、旧商標法第二条第一項第九号に該当するものとして、本願商標の登録は拒否を免がれない、といつている。

三、しかしながら、審決が引用商標として説示している別紙第二記載の如き構成の商標は未登録のものであつて、審決のいう登録第六二三九七号商標(大正二年九月六日出願、同年一二月二七日登録昭和八年五月二四日及び昭和二八年六月一日の各更新登録)の構成は、別紙第三記載のとおりであり、その構成において両者は明らかに異なつている。

そうすると、審決は不存在の登録商標を拒絶理由に引用して旧商標法第二条第一項第九号を適用した違法あるものとして取消を免れない。

第三、被告の答弁

一、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

二、請求原因第一、二項及び第三項のうち登録第六二三九七号商標の構成は別紙第三記載のとおりであり、審決が同商標として説示している別紙第二記載の如き構成の商標と異なることは認める。

審決が別紙第二記載の商標を登録第六二三七九号商標として引用したのは、該商標権者が大正一三年一〇月二八日附で提出した商標権回復登録申請書に添付した商標見本によつたものであるが、その後の調査によれば、特許庁備附の商標公報及びその後該商標権者が昭和八年五月四日、昭和二八年六月一日の更新登録願添付のものは、いずれも別紙第三記載のとおりのものであつて、前記回復登録申請書添付のものは、誤りであることがわかつた。従つてその回復登録申請書添付のものによつてその類否を判断した審決は誤つた商標見本によつてなされたものと認められても致し方のないところである。

第四、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因第一、二項及び第三項のうち登録第六二三九七号商標の構成は別紙第三記載のとおりであり、審決が引用商標として説示している別紙第二記載の如き構成の商標と異なることは当事者間に争いがない。

二、右争いのない事実に、<証拠>を合せ考えると、登録第六二三九七号商標は別紙第三記載の如く「白鹿」の漢字二字のみを鬚文字で横書して成る商標であるところ、該商標につき大正一三年一〇月二八日商標原簿滅失に因る商標権回復登録の申請がなされた際、その申請書に誤つて別紙第二記載の如く、「白鹿」の漢字を鬚文字で縦書し、その右肩に折輪廓内に「宜春酒」の漢字を篆書体で縦書し、「白鹿」の文字の左に「長生自得」「千歳寿」の漢字を二行に縦書して成る商標見本が添代されたため、審決はこれが登録第六二三九七号商標であると誤認し、これと本願商標とを比較した上、本願商標を登録第六二三九七号商標に類似するものと判断し、その前提の下に旧商標法第二条第一項第九号を適用したことが認められる。

およそ商標原簿の全部又は一部が滅失した場合になされる商標登録回復の手続は、滅失した商標権に関する登録の回復を目的とするものであるから、これによつて回復される登録商標は、滅失した商標原簿に登載されていた登録商標であり、たまたま回復登録申請書に滅失した登録原簿に登載されていた登録商標と異なる商標見本が添付されても、その商標見本の構成が回復される登録商標の構成となるべきいわれはない。

従つて、別紙第二記載の如き構成の登録第六二三九七号商標なるものは存在しないものというべく、審決が引用にかかる登録第六二三九七号商標を別紙第二記載の如き構成であると誤認し、これと本願商標とは類似するものであると判断したのは、存在しない登録商標を拒絶理由に引用した違法あるものというべきである。

三、よつて本件審決はこれを取り消すべきものとし、訴訟費用につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事原増司 判事福島逸雄 同荒木秀一)

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